統合失調症からの回復のステップ7+1の概観


こんにちは。
障害者生活支援センターおのころ島で働いている児玉朋己といいます。統合失調症の障害当事者としておのころ島で仕事をしています。
今日は、自分の闘病生活と仕事を振り返って発見した、病気から回復する過程にある7つのステップについてお話ししようと思います。
私たち病者には、病気の部分と健康な一人の大人としての部分があります。症状が表に出ることもありますが、その症状に対応している自分は健康な大人です。家族の方、支援者の方には、病者の中の健康な大人の部分をよく知ってもらいたいと思っています。その健康な大人が闘病過程で体験する回復のステップについて話します。

ステップ1:病気に気がつかない

私たち病者には、発病の瞬間というものがあります。症状が出始めた瞬間です。それは確かにそうなのですが、そのときすぐにそれが病気だとは気がつかなかったという人が大半ではないでしょうか? 私も当初は発病に気がつきませんでした。
私の最初の症状は、いろいろなところにある看板や掲示物に書いてある文字が自分に向かって瞬いてくるように感じることでした。そして、その文字が瞬いて自分にメッセージを送っていると感じたのです。大きな建物には出入り口に非常口という誘導灯が設置してありますが、その出るという字が私に向かって瞬いてきました。
しかし、そのとき私が思ったのは、「この感覚はちょっと違和感があるけど、何かな?」ということでした。それが病気の症状とはまったく気がつきませんでした。
この段階がステップ1「病気に気がつかない」です。
このステップ1「病気に気がつかない」時期には、本人は違和感を覚えているものです。しかし、その違和感が病気によるものだとは気がつかないということです。

ステップ2:病気に気がつく・知らされる

この状態が続き、症状が進行していって症状が「溜まって行く」と、自分でもこれはおかしいと感じるようになります。「自分はどこか変だ」「何とも苦しい」「長期休みがほしい」と切実に感じます。そして自分から病院に行こうと思ったり、家族など周囲の人が「どうもおかしい」と感じたり、明らかに異常なことを本人が周囲に訴えたりした結果、病院に行くことになります。それがステップ2「病気に気がつく・知らされる」段階です。

ステップ3:病気に絶望・拒否する

ステップ2によって受診にこぎつけました。その結果否応なく自分が病気だと知らされると、病気に絶望したり病気であると受け容れるのを拒否したりします。これには人によりまた時期によりさまざまなパターンがありますし、その度合いも違います。
これがステップ3「病気に絶望・拒否する」段階です。
この段階では、本人は受診拒否をしたり服薬拒否をしたりすることがあります。その他にも、「自分は病気じゃない」と言い張ったり、「こんな病気になって恥ずかしい」など、親に向かって行き場のない気持ちを吐露することもあるでしょう。
この恥ずかしいという気持ちをこじらせると、生きる意味を見失ったりする可能性もあります。盲腸になって恥ずかしいという人はいないでしょう。でも、人により多少の大小はあると思いますが、統合失調症になると恥ずかしいと感じるのです。「こんな病気になって恥ずかしい」と思う理由は、自分がもともと持っていた精神の病気に対する差別意識です。
統合失調症あるいはうつ病など精神の病気になったのは、「弱いからだ」「しっかりしていなかったからだ」「意志が弱かったからだ」など、かかった本人に落ち度がある」という間違った社会通念=偏見があります。その偏見を本人が自覚もなく持っていることがあり、自分で自分を恥ずかしいと感じるのです。
このステップ3は、本人にとっても家族にとってもいちばん辛いときでしょう。
本人は、一生懸命にもがきますが、なかなかよい方向に行かず、沼地に足を取られて飲み込まれていくような感覚があるでしょう。落ちるところまで落ちるしかないといっても過言ではありません。このとき、家族の支援が大切になってきます。病気の正しい理解・忍耐と受容が必要です。

ステップ4:病気に観念する

ステップ4は、「病気に観念する」という瞬間です。
ステップ3で挙げたような病気による絶望や病気の拒否に加えて、さまざまな色合いや度合いのわだかまり・欲求不満が病気にはつきものです。そのため、本人は自分が病気であるという事実にイライラしながら生活することになります。やがて、そのように「病気に反抗」することに疲れ、病気に「マイッタ」をするときがおとずれます。落ちるところまで落ち切った瞬間です。それが病気に観念した瞬間です。
その「マイッタ」する理由にはいろいろありますが、たとえば、「仕事が続かない・出来ない」とか、「症状に疲れた」「結婚出来そうもない」「大失敗した」とかがあると思います。
私が病気に観念したのは、「大失敗した」からでした。
発病後、私は10年間近く、いろんな仕事を断続的に転々としていました。病気であることを伏せてバイトをしていたのです。その過程で郵便局にも行きました。郵便局の仕事は、「自分にも出来そうだ」と思って始めた仕事でした。しかし、機械で自動的に仕分けられていく郵便物をケースに取り出しまとめていく、という作業をてきぱきとこなすことが出来ませんでした。担当職員からは「そんなやり方では駄目だ」と指導され、一緒に働いているおばちゃんたちからも憐れみの視線を向けられるようになりました。
そうこうしているうちに、バイトのメンバーも機械の操作をすることになりました。操作を覚える時間は1人につき1回朝の作業時間のみでした。
とても出来ないと思った私は、担当職員に「辞めたい。仕分けの仕事もこれ以上速く出来ないと思う」と伝えて辞めました。
これはショックでした。自分にも出来るだろうと思って選んだ仕事にまったく歯が立たず辞めざるを得なかったからです。大失敗だと思いました。そして、1年間引きこもってしまいました。
しかし、この「大失敗」があったおかげで、私は病気に「マイッタ」し、病気の自分にも確実に出来る仕事に就かなきゃだめだという気持ちになり、作業所に行くことになったのです。

ステップ5:病気を受容する

病気に観念できると、次のステップ5「病気を受容する」段階に進みます。このステップ5から、病気に対して自覚的主体的に対処出来るようになります。この受容する段階で本人が経験することを挙げてみます。

「自分は病気だから○○したのだ」、と振り返る。

これは、ステップ1やステップ2、ステップ4などで自分が経験してきたそれぞれの“普通でない”感覚・状態・行動などを思い返し、それらを引き起こした原因がすべて統合失調症という病気にあったのだ、と一つずつ確認していく作業です。一つずつ丁寧に振り返り、それぞれ原因が病気にあったと認識していきます。

「病気は自分ではない」と気づく。

これは、「自分は病気だが、病気は自分ではない」と気づくことです。病気を否定したり拒否したりするのは、自分全体が100パーセント病気になってしまったと思っているからです。自分で知らずにそう思ってしまっています。でも、実際には健全健康な自分が大本にあって、その一部分が病気になっただけのはずです。それに気づくということです。そして、自分と病気とを切り離し区別して考えることが出来るようになります。

「自分が悪いのではない」と気づく。

「病気になったのは、自分が悪いわけではない」と気づきます。自分の存在が悪で、病気は何かの罰だという考えから解放されることです。自分を責める気持ちがなくなるでしょう。

「親(家族)が悪いのではない」と気づく。

おなじく「病気になったのは、親(家族)が悪いわけではない」ことに気づきます。父親・母親の自分への対応や育て方が悪かったのだという考えを捨てます。それは誤解だからです。親を責める気持ちから解放されます。

「自分に責任を持つ」

病気になったのは自分や親が悪いわけではない。責任はありません。その病気を受容する過程では、出来ないことが多いために無力感を感じたり自暴自棄になったりすることもあるでしょう。しかし、根本のところで自分の病気に対処する態度と行動については責任を持つ決意をします。そこから力が湧いてきます。

ステップ5で本人に訪れる気づきや行動は他にもたくさんありますが、どれにしても自分が自覚的主体的に病気に対処するようになるきっかけとなります。

ステップ6:病気と折り合いをつけることを知る

ステップ6は、「病気と折り合いをつけることを知る」です。この段階での課題は、病者のペースを知り基準を下げることです。
ステップ3では自分の差別意識に苦しむと言いましたが、ステップ5で病気の受容が大まかに出来てくると、自分の生活に意識が向くようになります。そして、昔のようには出来ない自分に気づき欲求不満がたまっていきます。
物事をテキパキこなせないし、すぐに疲れてしまって何をするにも自分のやりたいようにできないのです。夜、眠れずに布団の中にいると時間がもったいないようにかんじ、起きだしてDVDを観たりします。
この時期に大切なのは、「病者のペース」があることを知ることです。
・焦らないことが一番大事
・効率が悪くても自分を責めない
・自分が悪いのではなく病気が悪い
・自分に要求しない
・精一杯やってるならそれでいい
・完成度とスピードを求めない
・「いまはこれで良いのだ」と思うことにする
・「いまは不本意で構わない」と思うことにする
・「健常者のように」「以前の自分のように」と思わないことにする
このような意識を持つことで、発病前の自分と比べることをやめることが出来れば、イライラや欲求不満が減り、回復を早めることにつながります。

ステップ7:出来ることをすればよいことを知る

ステップ7は、「出来ることをすればよいことを知る」です。この段階で心がけるとよいことは、
・同じ病気の人を知ろう
・仲間を作ろう
・確実に出来る仕事に就こう
・小さなことはよいことだと思おう
・人に囚われるのはやめよう
・人を手助けしよう
といったことです。
これらは社会性を取り戻すというこの段階の課題に応えるものです。
①就労継続支援B型事業所(これは、かつて作業所と呼ばれていたものです・)
②サロン(ボランティア運営)
③患者会
④地域活動支援センター
⑤自立生活センター
といった社会資源を利用するようになり、生活の質を高めていく段階です。

+1(プラスワン):希望を持って生きることにする

以上が回復のための7つのステップですが、+1(プラスワン)として、生活をより豊かにするチップスがあります。それは、「希望を持って生きることにする」です。いくつか紹介します。

「心ある人がいることに気づこう」

「世知辛い世のなか」という言い方があります。自分も含めていつも清く正しくいられるわけではありません。それなのに、サロンを運営するボランティアや患者会の仲間・事業所の職員、あるいは職場の同僚のなかに、格別に冷静な熱意と愛を持って私たちに接してくれる人がいることに気づきましょう。
得難い人です。その人がいるおかげで、「世のなかも捨てたものじゃない。もう少し頑張ってみよう。」と思えます。

「(漠然としたものでも)夢を持とう」

精神の病を持つと、程度の差はあっても多くの人が絶望します。鬱病とは絶望のことと言ってよいかもしれませんし、統合失調症も「こんな病気になってしまってもう自分には生きる意味がない」と感じさせる病気です。
これまで、その絶望の状態から薄皮をはがすように回復してきましたが、ここで私たちの目を未来に向けます。「今後はこうありたい」「こうしたい」「こうなったらいいな」「出来るんじゃないか」、そういう思いを持つことです。

「物事や人に感謝しよう」

これまでの過程で経験したこと(大きな病気で絶望したところから困難と折り合いをつけながら回復してきたこと)を振り返って、「自分が体験した困難は自分だけのものではなく、一般の健常者を含めた他の人たち一人ひとりがそれぞれ固有の困難を持ち、それと向き合って生きてきたしこれからも生きて行くのだ。」ということに気づきましょう。そして、物事や人がいまそのように存在していることが当たり前ではなかったということに感謝しましょう。

まとめ

以上が、統合失調症から回復するための7つのステップです。どの段階も、私の体験を踏まえたものになっています。実は、これらをまとめた小冊子を作りました。『私が体験した、統合失調症回復のためのステップ7+1』です。
これを作るときに自分の思いとしてあったのは、私たち病者は、狂っているといっても100パーセント狂ってしまっているわけではないということです。病気の部分、症状の部分もありますが、反対に健全健康な大部分もあって、症状に対して懸命に対処しようとしているということです。一般の方にも、その病気に対してもがいている私たちの健全健康な部分を認めてほしいと思っています。
ご清聴ありがとうございました。

4件のコメント

児玉さま
はじめまして。前田と申します。

精神障害を抱えながら働くことについて、理解が深まりました。

私自身は数年間、躁鬱と付き合っており、
特に働きたいけど働けないという時期の
葛藤の部分にとても共感を持ちました。

「私が体験した、病者回復のためのステップ7+1」

こちらに興味があるのですが、pdf版は
現在も配布されていらっしゃいますでしょうか?

ブログ記事にあるYouTube上の講演動画にて
ダウンロードURLリンクがあったのですが、
リンク切れとなっていたため気になりました。

ぜひとも一度、拝見したいです。

お忙しいところ恐縮ですが
何卒よろしくお願いいたします。

前田

コメントありがとうございます。
葛藤の部分というのは、どの人も通過するつらい時期ですね。

小冊子のリンクはこちらです。
https://www.dropbox.com/s/lmb6jin8fmdr4rj/%E7%AC%AC%E5%9B%9B%E7%89%88%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E5%9B%9E%E5%BE%A9%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%977%EF%BC%8B1.pdf?dl=0
1週間程度でリンクが切れると思います。
ダウンロードの可否をお知らせくださるとありがたいです。
メンテナンスが行き届いておらず、すいませんでした。
ぜひ参考にしてください。

小冊子のリンクを送っていただきありがとうございます。
上記リンクで問題なくダウンロードすることができました。

途中まで小冊子を読ませていただき、

・こんな病気になって恥ずかしい
・症状に疲れた
・友達がいない
・他の人のようにはいかないみたいだ
・病気は自分ではないと気づこう

など、自分にも当てはまると感じることがありました。

特に自分が100%病気なのではなく
自分の一部が病気であると区別することに関して、
両者の図で明確にイメージされており、この部分だけでも
自分にとって、自己を肯定する柱の一つになりそうです。

またゆっくり自分の生活状況と重ねながら読んでいきたいと思います。
この度は、小冊子を共有いただき本当にありがとうございました。

ご連絡ありがとうございます。
お役に立つ部分があり良かったです。

明るくしなやかに闘病したいですね!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

ABOUT US
谺(こだま)
谺(こだま)こと、児玉朋己といいます。 歌うピア・サポーターをしています。 静岡県藤枝市にある自立生活センター「おのころ島」が運営している地域活動支援センター「りんりん」の施設長です。 精神障害を持つ方へ同じ当事者としてピアカウンセリングを行うほか、シンガー・ソングライターとして音楽活動をしています。